田隈 泰葉
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所属会社株式会社HITOWA フードサービスカンパニー
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職種管理栄養士
食事の時間に、プラスの価値を
田隈泰葉がHITOWAフードサービスに入社したのは、2020年。
当時から変わることなく、HITOWAが運営する介護施設「イリーゼ」では、ご入居者様一人ひとりの咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)の状態に合わせ、安全に食べられる食事を提供することが徹底されている。
管理栄養士としてその重要性を実感する一方で、安全性の確保はもちろんのこと、毎日の食事の時間に「何かプラスの価値を提供したい」という想いを強く抱くようになった。
「ご入居者様がいつまでも食事を楽しむためにできることは何か?」「ご入居者様が食事を楽しみ、スタッフがその方と向き合う。当たり前のことを、当たり前にできるきっかけが欲しかったんです」
ちょうどその頃、社内では「HITOWAならではの価値創造」を追求する動きが始まっていた。自分にできるのは、食の面からそれを体現すること。田隈は、その手掛かりを探し始めた。
学会で出会った「カムカムメニュー」
ヒントを求めて参加した日本摂食嚥下リハビリテーション学会で、田隈は当時、東京医科歯科大学に所属していた松尾浩一郎教授(現 東京科学大学)の発表に出会った。
そこで紹介されていたのは、噛みごたえを工夫した食事に、口の健康や栄養、運動、社会参加を組み合わせる「カムカム健康プログラム」である。高齢者の要介護期間の短縮や、健康寿命の延伸には、口腔機能の低下(オーラルフレイル)の予防が重要であり、教授が開発したプログラムでは、オーラルフレイルの予防効果が実証されていた。
田隈の心を動かしたのは、研究結果だけではなかった。参加した高齢者が生き生きと過ごし、初めて会った人同士が親しくなり、食事を通じて人とのつながりまで生まれていた。
「イリーゼで実現できたら、ご入居者様に喜んでいただけるだけでなく、HITOWAの価値創造にもなると思いました」
講演後、田隈は松尾教授に自ら声を掛け、名刺を差し出した。その後、松尾教授との意見交換が始まり、教授によるメニュー監修のもと、イリーゼへの導入に向けた検討が進んでいった。
安心して楽しめる、イリーゼのメニューへ
しかし、地域で暮らす比較的元気な高齢者向けのプログラムを、そのまま介護施設に取り入れることはできない。ご入居者様によって咀嚼や嚥下の状態が異なる中で、安全性と噛みごたえをどう両立するかが、最初の壁だった。
開発チームは、食形態の基準を守りながら、漬物を刻んだソースや、レンコン、豆、もち麦などを使い、「シャキッ」「ポリッ」「もちっ」とした食感を料理に散りばめた。味や彩り、季節感にもこだわり、目指したのは訓練食ではなく、「今日は何だろう」と楽しみにできる献立だった。
専門家とレシピを検討し、栄養士や調理担当者が試作を重ねた。食べやすさ、味、見た目、厨房で再現できるかを確認し、2022年、イリーゼで「カムカムメニュー」として導入が始まった。
現場の声が、メニューを育てた
料理の意図を伝えるため、食事前の口腔体操やスタッフからの説明、写真付きのポスターも用意した。
「今日のカレーには、レンコンやごぼうが入っています。食感の違いを味わいながら召し上がってみてください」
一皿をきっかけに、ご入居者様とスタッフの会話が生まれ、食事中の表情や食べ方にも目が向くようになる。一方で、導入後には「少し硬い」「残食が気になる」という声も届いた。田隈とチームはホームや厨房の意見を聞き、食材を小さくしながら食感は残すなど、献立と調理方法を見直した。
新しいメニューを考案するたびに専門家の意見を聞き、試作と改善を繰り返す。カムカムメニューは、完成品を一方的に届けるのではなく、現場の声とともに育てる取り組みになっていった。
一人の挑戦を、チームの力へ
専門家とのやり取りを重ねる中で、チームは「カムカムできる食材」を一覧化した。食材の特徴や調理方法を共有し、メンバーが自ら献立を考え、試作し、改善できる仕組みを整えていった。
「今は、私が一からメニューを考えることはほとんどありません。チームのみんなが自分たちでつくり、改善しています」
2026年3月、教授による継続的な監修を終え、自分たちだけで開発を続ける段階へ進んだ。教授から届いたのは、「自走できるようになって頼もしい」「誇らしい」という言葉だった。
現在、カムカムメニューは各地のイリーゼで月2回提供されている。安心して食べられる毎日を守りながら、香りや彩り、食感を楽しみ、誰かと言葉を交わす瞬間を増やしていく。一人の問題意識から始まった挑戦は、今、チームの力で食卓へ届けられている。
※ 本ページに記載の情報は2026年9月時点のもので、最新の情報と異なる場合があります。






















